バリカン近代史

WAHLAndisOster

 1919年、アメリカのイリノイ州に住むリオ・ウォール(当時高校2年)は、電磁モーター式クリッパーで特許を取得し、現在の「WAHL」を設立する。時を同じくして、アメリカのウィスコンシン州に住むマシュー・アンディスは二人の仲間とともに手動クリッパーを製造する会社「Andis O M Manufactuaring」を1921年に立ち上げる。しかし彼らは約一年でそれぞれの会社を持つため、別々の道を歩むこととなる。マシュー・アンディスは現在の「Andis」を、仲間の一人であったジョン・オスターは現在の「Oster」をその後設立する。「WAHL」、「Andis」、「Oster」の3社はその後更なる成長を遂げ、約100年もの間バーバーカルチャーを支え続けてきた。

 

クリッパー低迷期

 1970年代に入り、バーバーカルチャーは長い低迷期に入る。そのきっかけとも言われているのが「ビートルズブーム」である。彼らの人気とともに彼らのヘアスタイルが流行し、シザーカットの需要が急激に増えていったのである。しかし各社ともその他のヘアケア用品や、他分野の商品の開発に力を注ぐことによりこの窮地を乗り切る。ホテルなどで目にする壁掛けへアドライヤーはその際にAndisが世界中に広めたものである。Osterは現在でもキッチン用品のメーカーとしても有名である。

 

バーバーブームの到来

 2000年代に入るとアフリカンカルチャーが注目され始める。それまではロックやカントリーがほとんどであった音楽業界もRBHip-Hopなどが主流となっていった。そしてそれに伴い、若者たちは再びバーバーに足を運ぶようになった。さらに、2010年代に入るとモーターやリチウム電池の技術が発達し、各社ともコードレスコードレスクリッパーや復刻版の開発に力を注いだ。これらによってもたらされたバーバーブームによりバーバー業界はかつての勢いを取り戻していった。

 

ダークホースの台頭

 2018年、アメリカ各地で開催されたバーバーエキスポで、ある新製品のコードレスクリッパーが発表される。そして、そのプレゼンテーションはその後のバーバー業界を大きく変化させるものとなり、これまで続いてきた「三強時代」を終わらせるものとなる。プレゼンテーションを行った会社は「Babyliss」(ベビリス)というフランスの理美容メーカーである。Babylissは理美容業界では知名度の高い会社であったが、彼らのクリッパーはそれまで北米ではほとんど目にすることはなかった。しかし、彼らの発表したコードレスクリッパー「Babyliss Pro Gold FX」は圧倒的なクオリティとパフォーマンスの高さから瞬く間に世界中で最も人気のあるクリッパーの一つとなる。特に注目されたのはコードレスクリッパーでは初めて採用された「ブラシレスモーター」である。それまでのクリッパーに内蔵されていたた電動モーターの内部には摩擦によって電気を伝えるためのブラシが存在するが、そのブラシは長期間の使用で消耗してしまう。一方、ブラシレスモーターにはそのブラシがないのでモーターそのものに寿命がない。ベビリスはこの効率が良く、パフォーマンスの高いブラシレスモーターを初めてコードレスクリッパーに搭載した。そして、そのモーターの設計を任されたのがイタリアの種馬、「フェラーリ」である。

 

大クリッパー時代

 Babylissはその後、コードレストリマーとフォイルシェーバーを続けて発表し、両者ともパフォーマンス面で他社の製品を圧倒する。さらにはクリッパーのカラーやパーツを自由にカスタマイズできるアプリ「CustomFX」を発表し、世界中で知名度と人気を不動のものとする。

Babylissが証明したのはパフォーマンスにおいての可能性だけではない。彼らが新製品を発表してから「Gamma +」や「Caliber」といった新しいブランドの名前を耳にするようになる。Babylissの活躍は、ルーキーたちが市場に参入するきっかけともなったのである。

しかし三強もこれに黙ってはいない。WAHLはコードレスマジッククリップやコードレスシニアをアップグレードさせ、ロングセラー商品であるDetailerのコードレスを発売した。さらにピクサー映画『Soul』ともコラボレーションをする。2022年に100周年を迎えるAndisは、看板商品であるAndis MasterT -Outlinerをコードレス化し、20213月にはゴールドとカッパーのAndis Masterを発売するなど、創立100周年に向けた準備を着々と進めている。これまで沈黙を保ってきたOsterも、2021年にコードレスクリッパーを発売することを先日公表している。